2008.04.25

『へいわ屋漫筆』第13回 びしゃこ

 PM読者の皆さん、こんにちは。暖かなよい季節になりましたね。
今時分使う「風薫る」という言葉は、とても素敵な表現ですよね。

 皆さんは今年はもう、陽光の中や穏やかな夜のしじまの中、深呼吸して風の香りを嗅ぎましたか。鼻から春を感じましたか。へいわ屋店主は、季節にはそれぞれ印象付ける匂いがあると思っているのですが、とりわけ春は匂いも鮮烈に感じられます。皆さんにもそれぞれの「春の匂い」があるでしょうね。(サクラの匂い、新しい教室の匂い、イカナゴの釘煮の匂いとかも?)
店主にも「This is春」の匂いがあるんです。

 店主は実は山(深山ではなく里山ですが)育ち。木々や草花、土、水の強い香りの中で育ったという幸せな過去を持っています。

 そんな店主の「春の匂い」は…。山が春たけなわになった頃、どこからか漂ってくる匂い。花のにおいなんですが、どれがそいつか未だに判らないくらい地味な花。そして芳香というわけでもない(笑)。たとえて言うなら幼児のよだれのような(!)べったりと甘えたな、妙~な匂いがあるんです。これが漂ってくると「あ、もう寒い日はどっかに行ってしまって、今日からは春なんだ」と、にやっとしてしまう懐かしい匂い。この匂いが店主の春のイメージと重なってあるわけですが、大人になって、比較的街中に引っ越して以後、ふっつり嗅ぐこともなくなっていました。
 そして唐突に再会したのですが、その場所がとても意外な場所で…。店主がウェイトレスのアルバイトをしている大ホテルの中、窓も無い食器洗い場の天井から、あの匂いが降ってきたのです!

 理由は簡単で、このホテルは店主の生家に程近い山に建っていて、食器を乾燥させるため、外気を取り込んでいたのです。山続きなら植生も同じみたいで、匂いも入ってきたのでしょう。
 でも、鉄筋の箱のような大ホテル、昼夜も季節も関係ない不夜城のようなその中での再開が余りに鮮やかだったので、ここに書かせてもらいました。
匂いの正体の花の名前も分からなかったのですが、店主の祖母に言わせると「びしゃこ」という花だそうです。匂いに劣らず変な名前!

 深々と深呼吸して、新しい季節の訪れを知ったり、花の名前の土着的な響きを楽しんだり。こういったことはお金はかからないのにとても豊かなことに思えます。「丁寧な暮らし」ってこういうことができる生活ではないでしょうか。いつも言ってることですが、丁寧な暮らしに平和はかかせません。春の匂いを将来も心豊かに嗅ぐことが出来るように、へいわ屋は行動していきたいです。

 今、困難な状況にある人にとっては空気の匂いなんて構っていられないかもしれません。でもそれぞれの心の平安を取り戻して、ふとした季節を味わえる時が少しでも早く来れば良いなと願っています。

(C)へいわ屋 2008年4月記 (PeaceMedia2008年5-6月号掲載)
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「びしゃこ」は、「ヒカサキ」(姫榊/非榊)という花のようです。
参照:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』など。

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